四間飛車党の備忘録

四間飛車メインで振り飛車・相振り飛車・右玉なども含めあれやこれや綴っていきます。

竜王戦本戦 森内-片上戦詳報(2)

参考1図 20日に行なわれたC級2組順位戦でも四間飛車の将棋がいくつか見られたが、既に観戦記も掲載終了した森内-片上戦からまずは順番に取り上げていきたい。
 対局終了後、片上四段は▲6八銀(前回の詳報第1図を参照)を成立させた要因となった△8四歩を「軽率でしたね」と真っ先に悔やんだとの記述。前回も触れた通り、この手は▲8六角~▲7五歩から一歩持たれる筋を警戒したものだが、同じ意味で参考1図のように△4五歩と突いて角筋を通し(実戦では片上四段はここで△8四歩と指した)▲8六角を牽制することはできないかと考えてみた。
参考2図 参考1図から▲2四歩△同歩▲6五歩と仕掛けられた場合はどうするか。①△7七角成▲同桂とパンツを脱ぐ手を強要するのは後手に後続がなく、8八銀を上がっていない形がむしろプラスに働きそうだ。これは振り飛車が面白くない。
 ②△6五同桂は▲3三角成△同桂に▲2四飛とは走れず(△3五角が痛打)▲6六銀(参考2図)で次の▲6五銀と▲2四飛を見せられた時にどう指すか。前者を防いで△5四銀と上がり▲2四飛なら△4六歩、後者を防いで△2五歩と突き▲6五銀(先に▲5五角は△4四銀▲6四角△7三銀と顔面受けに行く)に△4四角と先着しておく。どちらも有力でそれなりに指せそうだ。
参考3図 ③△4四銀と立つのはどうか。▲6四歩△6五桂▲8八角△5七桂成▲同金の局面(参考3図)は振り飛車が駒得とはいえ守備桂と攻めの銀の交換、6四の拠点も目障りだ。筆者の第一感はここで△7三銀打だが、▲6八飛と回って歩を守る手がある。あるいは△6四銀と払ったとしても▲6五歩と打たれ、△同銀に▲6四桂の両取りがある。存外難しい将棋と思うが、穴熊が薄く居飛車としては指す気がしないか。
 一通りの変化を調べてみたが、少なくとも振り飛車が不利になるということはなさそうだ。しかし△4五歩は本当に▲8六角を牽制しているのだろうか。
参考4図 参考1図からそれでも▲8六角には△6五歩と突きたくなるが、参考4図のように▲8八銀と受けられてみると△6六歩と取り込んでも▲同銀△6五歩▲5七銀で大したことがなく、むしろ一歩渡して次の桂頭攻めを誘発してしまっている。
 ▲8六角には普通に△6三金と上がり、7筋の歩交換を許容する指し方で良いのではないだろうか。この後に5四銀型にこだわらず△4四銀と上がる形にすれば、▲3六歩~▲3五歩の狙いもひとまずなくなる。別の形で一歩を攻めに使われる可能性があるのは否めないが、先手は角の移動に手数をかけているため振り飛車側も充分な迎撃態勢を取ることができるはずだ。
参考5図 参考1図で▲8八銀なら△6三金と上がる(△5四銀では▲8六角を許してしまう)。そこで▲6八銀△5四銀なら森内-片上戦の△8四歩に代えて△6三金と上がっている形となり、明らかに振り飛車が得をしている(例えば本譜の通り進んだ時に▲6四歩を△同金と取れる)。
 △6三金に対し単に▲2四歩△同歩▲6五歩は気になるが、△同桂▲3三角成△同桂の局面(参考5図)でやはり▲2四飛と走れないのが居飛車としては痛い。仕掛けを断念して▲3六歩なら△5四銀と上がり、竜王の居飛穴本P229で「仕掛けを警戒するなら最善かもしれない」とされている構えに合流できる。

 駆け足ではあったが、以上をもって参考1図の△4五歩は成立、以下▲7五角なら7筋の歩交換を許容して4四銀型に組む、▲8八銀なら△6三金▲3六歩△5四銀で既存の形に合流と結論づけたい。

第1図 森内-片上戦に戻って第1図は夕食休憩時の局面。観戦記担当の比江嶋女流プロと共に夕食を取った際に片上四段は「暑いんだからもう投げてもいいんだけどね。せっかくだからもう少し(名人との対局を)堪能することにするよ」と話したとある。これが本音か否かは本人のみぞ知るところだが、駒組み段階での△8四歩を悔やんだという事実とともに、勝負は序盤でついてしまったという思いが片上四段の中で強いことがうかがえる。ゆえに筆者の詳報も序盤研究に終始してしまった、というのはこじつけに過ぎないが。
 それと同時に、観戦記の結びも片上四段の興味深いコメントで締めくくられている。

 後日(と思われる)比江嶋女流プロが片上四段と会った際に「思うような戦いが出来なかった悔しさを語った後、『これからはバックギャモンで名人目指すよ』。いつものようにおどけた。」とある。東大卒という経歴が醸し出すエリートのイメージとは裏腹に、片上四段の気さくな人柄が文中に良く現れていると筆者は受け止めた。
 こうした類の描写は何といっても河口七段の文章に数多く見られるが、最近の『新・対局日誌』を読んでも分かる通り、そうしたエピソード自体が少なくなっておりなかなか文中に現われることがない。著者自身もそのことに落胆の色を見せているが、そうした状況にあって新聞の観戦記で若手棋士の発言を逃さずすくい上げ、活字に残しているというのは評価されてしかるべきではないだろうか。
 将棋の内容自体に話を戻す。森内名人は慎重な発言を崩していないものの、少なくとも仕掛け以降で振り飛車有利、あるいは互角に戻った瞬間はなさそうである。序盤で勝負が決まる最近の将棋の恐ろしさを再認識した一局。
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