C級2組順位戦の佐々木-伊藤能戦を本日は取り上げる。四間飛車に対して右銀急戦を仕掛けたものの△7五歩と打つ形になり局面が収まり第1図、後手が飛車先を交換したところである。

第1図以下の指し手
▲6四角 △6五銀 ▲7五角 △7四飛
▲6六銀 △7六歩 ▲4二角成△同 金
▲6五銀 △7七歩成▲7四銀
▲6四角の局面で昼食休憩となった。△6五銀に▲9一角成ではなく▲7五角なのは△7六歩を嫌ったものか。以下△7四飛に▲6六銀とぶつけ、△7六歩に▲4二角成と切り大さばきに出る。▲7四銀と取って飛車交換となったところでは二枚換えではあるもののと金の存在も大きく難しい分かれか。

第2図以下は△6七と▲同金△7九飛▲7一飛△8九飛成▲8一飛成と進行したものの、後手玉の薄みをついて先手が攻勢を取る形となり、佐々木四段の勝ちとなった。佐々木四段はこれで六勝三敗、一方の伊藤能五段は三勝七敗と一足先に順位戦の日程を終え、他者の星次第では降級点もありうる厳しい結果となった。
第1図のように居飛車に飛車先を切られてしまっては普通悪いとしたものだが、その後の佐々木四段の大さばきを見据えた巧みな指し回しが印象に残った一局。
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2月14日に行なわれたC級2組順位戦より、島本-横山戦を取り上げる。四間飛車対棒銀の定跡形となり第1図、
『四間飛車の急所3』
P201では▲4五歩が最善と記されているが…。

第1図以下の指し手
▲8八角 △5五歩 ▲同 角 △4六歩
▲3四歩 △同 飛 ▲3五銀 △7四飛
▲4六銀引△3三歩 (第2図)
▲8八角は、
『四間飛車の急所3』
では「振り飛車が良くなる」と書かれている手。5筋を突き捨てるのが手筋だ。△4六歩に対する▲3四歩で本の手順を離れたが、△同飛と応じ▲3五銀の進出を許すものの、△7四飛と転換して▲4六銀引に△3三歩と受けた第2図は振り飛車が軽い形に見える。

第2図以下は結局後手の美濃囲いが崩されることもなく横山四段の勝利に終わった。この結果横山四段は五勝四敗、負けた島本四段は二勝七敗となり次の最終戦に勝たない限り降級点を取るという厳しい星取りとなった。
第1図は棒銀の定跡形であり筆者も実戦経験が豊富である。あまり▲8八角と打たれたことはないが、△5五歩の突き捨てでやはり振り飛車が充分指せるように思える。そのことを再認識させられた一局。
B級2組順位戦第十回戦の二局目は加藤-佐藤秀戦を取り上げる。後手の四間飛車に対して加藤九段は十八番の棒銀で対抗…とはならず、右銀急戦を採用した。第1図はその中盤戦である。銀を前線に繰り出して居飛車好調のようだが…。

第1図以下の指し手
▲3四歩 △4四銀 ▲5四銀 △3二歩
▲2二歩 △6四歩 ▲2一歩成△5三歩
(第2図)
▲3四歩の突き出しに対して後手は△4四銀とぶつける。大捌きをさけて先手は▲5四銀とかわし、△3二歩に▲2二歩~▲2一歩成と桂馬を取りに行ったものの、その代償に△5三歩と銀を殺された第2図では後手が指しやすいように思える。以下▲4四角と先手は角切りを敢行した。

▲4四角△同飛▲4五銀△2七角▲3九飛△4五飛▲同歩△3八銀と進み、そこで先手は▲3七飛と自陣飛車を見せたものの結果は実らず、後手の美濃囲いは健在のまま佐藤秀六段の勝利となった。
加藤一二三九段といえば棒銀、棒銀といえば加藤一二三九段である。自著
『加藤流 振り飛車撃破』
でも棒銀の詳細な変化を載せている加藤九段が、なぜこのところ対四間飛車に棒銀を採用しないのか。謎は深まるばかりである。
読売新聞に掲載された第19期竜王戦1組1回戦の杉本-木村一戦より。▲1五歩を早めに突き越した先手四間飛車に対して後手は右銀急戦で対抗、銀を取られる代償に後手は飛車を成り込んで第1図を迎える。次に△7六竜▲同角△6六角成の狙いが見えているが…

第1図以下の指し手
▲7三歩成△7五歩 ▲7七飛 △同角成
▲同 銀 △同 竜 ▲7四と △6六桂
先手の▲7三歩成に対して先に述べた△7六竜▲同角△6六角成は「怖くて踏み込めなかった」とのこと。本譜は△7五歩に▲7七飛と引いたが、△同角成以下▲7四とに△6六桂と急所に打たれては先手が苦しい。ここでは▲9六飛と回り、以下△7三桂▲7五銀△7七角成▲5六角△7九と▲7四歩のように戦うべきで、これなら先手もまずまずの勝負であった。

戻って第1図ではいかにも筋悪な▲7七銀打が正着で、以下△9九角成▲7三歩成△6四桂▲7五飛△7六歩▲6三と△同金▲7二飛成△6二歩▲8八歩となれば先手が充分であったとのこと。先手は▲7三歩成に△7六竜の変化を読んでいたため、この銀打ちを着手することができなかったようである。
それにしても第1図で▲7七銀打が正着とは…プロのみならずアマチュアでも指せない一手である。将棋の奥深さ、難しさを再認識させられた一局。
C級2組順位戦第9回戦の高野-中村亮戦より。四間飛車対棒銀というともに十八番の戦形となり第1図、後手は△1四歩と△6四歩を両方突いているために△1二香が間に合っておらず、
『四間飛車の急所3』
をはじめとする定跡書に載っているような△5一角と引いての定跡形に持ち込むことができない。はたしてどう対処するのか。

第1図以下の指し手
△5三金 ▲3八飛 △3五歩
▲同 銀 △1五角 ▲1六歩 △2六角
▲3六歩 △3七歩 ▲同 桂 △3五角
▲同 歩 △同 飛 (第2図)
△5三金は窪田流と呼ばれる指し方。▲3八飛には△3五歩▲同銀△1五角と幽霊角を用いる。▲1六歩△2六角▲3六歩で角が死んでしまったが、△3七歩▲同桂△3五角と切り、▲同歩△同飛とさばいた第2図は後手も指せそうに見えるが…。

第2図以下の指し手
▲4五桂 △3八飛成▲5三桂成△2八飛
▲6九金打△3三竜 ▲4二角 △3二竜
(第3図)
▲4五桂が二枚飛車の攻めを恐れない強手。△3八飛成に▲5三桂成と金を取って駒割はほぼ互角。△2八飛には▲6九金打とがっちり受けて崩れない。一気の攻略は無理と見たか後手も△3三竜と引くが、そこで▲4二角がノータイムの着手。△3二竜と逃げる手に対して先手の後続手段は?

第3図以下の指し手
▲4五歩 △3四銀 ▲4四歩 △4一歩
▲4三歩成△同 銀 ▲同成桂 △同 竜
▲6四角成△2九飛成▲1一角成(第4図)
▲4五歩が角筋を活かした急所の一手。△3四銀と予め当たりをかわし、▲4四歩に△4一歩で角がピンチのようだが、▲4三歩成以下成桂と銀を交換して▲6四角成とこちらに成り返る手がぴったりとなった。△2九飛成に▲1一角成と自陣の角もさばいた第4図では、駒得ということもあり先手優勢と言えよう。

実戦は第4図以下△3三桂に▲9五歩が急所の端攻めとなり、十数手で後手があっけなく投了をするという形となり先手の快勝となった。この結果高野五段、中村亮四段ともに四勝四敗という五分の星に。
振り飛車に対する棒銀は筆者の得意戦法でもあるが、舟囲いの中でも玉が薄いとされる形から▲4五桂の強手を放ち、二枚飛車の攻めを受けても居飛車が指せるという大局観は驚きであった。定跡とは異なる展開とはいえ、大いに参考になった一局。