四間飛車党の備忘録

四間飛車メインで振り飛車・相振り飛車・右玉なども含めあれやこれや綴っていきます。

失着を探せ

 将棋世界12月号で気になった記事からもう一つ。先日取り上げた中座-千葉戦が、順位戦星取り表の下段部(P209)で紹介されていた。前日の渡辺-千葉戦とも関連するが、居飛車穴熊に対して四間飛車側が3二の銀を4一~5二と転換し、その間に先手が▲6八角~▲4六歩と4筋から動き、△同歩▲同銀△6五歩▲5五歩と動いて第1図。

第1図 前日記した通り渡辺-千葉戦の自戦記では第1図より△5五同角▲同銀△4九飛成▲4六銀△1九竜の変化を「自信がない訳ではなかった」と述べられているが、中座-千葉戦はここで△6六歩と変化し、以下▲同金△6五歩▲6七金引△9六歩▲同歩△9七歩▲同香△8五桂▲4五桂と進んだ。この局面が将棋世界12月号P209の第4図である。
 ここから千葉五段は△4五同飛と切っての猛攻を見せた。具体的な手順は将棋世界か当ブログの記事(こちら)をご覧頂くとして、以下局面は第2図を迎える。
第2図 ここに至るまでの手順は「『さすがに無理筋でした』という千葉」、第2図の局面に関しては「△3七角成の感触が悪いものの、形勢は微差。」と述べられている。すなわちここでは振り飛車がやや劣勢ということになるが…居飛穴を薄くして実戦的にはまだまだ、とでも定跡書に書かれそうな局面ではある。
 問題は「この後中座の失着を的確に咎め、千葉快勝。」という結びの一文である。第2図以降の手順は当ブログでも紹介したが、その中に「失着」が隠れ潜んでいる可能性が極めて高い。そこで改めて再検討してみることにする。
第3図 第2図での先手の指し手は▲5三歩△同銀▲4一飛。単に▲3一飛は△4一歩の底歩があるためこの三手は妥当な進行か。続いて△6四桂に▲6五香も失着とは思えない。
 問題は第3図の△9五歩に対する▲8五桂。非常手段か、少なくともかなりの勝負手に見える。代替手段としては▲8六桂と打ち、△9六歩に▲9二歩の反撃を用意する手が目につくが、この瞬間に手抜かれて△9七歩成▲同銀△8五桂くらいで先手がまずそうだ。そもそも第3図の時点で後手が指せると先日の段階で筆者は判断したのだが…。
第4図 第4図での▲6四香も違和感を感じる一手で、△同馬▲6五歩に△9七香を利かされたのが大きいように思える。以下馬も7三に引き付けられて守りに働いてしまった。筆者としてはこれを「失着」の本命に推してみる。
 とはいえ代わりにどう指すかも難しい。単に▲7二桂成、▲2一飛成のどちらも冴えない。あるいはこれ以前に形はさらに乱れるものの、▲6六金と歩を払っておくべきだったのだろうか。▲6七銀と引ける形になれば先手玉もそれなりに耐久力がつく。また6八の角が9筋に利くのも何らかの効果がありそうだ。

 大平四段の将棋を取り上げた時に「緩手がある」というヒントを元に邪推してみたわけであるが、あれから十日ほど後に再び同じようにしてあれこれ考える機会があるとは意外であった。しかし今回はどの手が失着なのかどうもはっきりと断言しづらいのは、なまじ振り飛車寄りの視点で贔屓目に見てしまうからであろうか。
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新人王戦・決勝三番勝負第一局 渡辺-千葉戦詳報

 遅ればせながら将棋世界12月号を購入。当ブログでも取り上げた新人王戦・決勝三番勝負第一局の渡辺-千葉戦が、千葉五段の自戦記という形で掲載されていた。それを元に、詳報という形で同局を再度取り上げてみたい。

第1図 実戦は第1図より△4一飛▲6八角△5一角…と進みじっくりとした戦いになったが、「△4一銀▲6八角△5二銀と繰り替えておくのがよくある順」とこちらの変化にも触れている。「本局の4日後の対局ではそう指した」とカッコ内にあるが、これはC級1組順位戦第六回戦の中座-千葉戦に間違いないだろう。
 △4一銀▲6八角△5二銀以下は「▲4六歩△同歩▲同角に△6五歩と反撃し、激しい展開になる」とある。△6五歩以下は▲5五歩△同角▲同銀△4九飛成▲4六銀△1九竜▲4八飛が一例だ(参考1図)。
参考1図 これは『四間飛車破り 【居飛車穴熊編】』P187~189にも詳しく載っている手順である。同著では参考1図以下△6六歩▲同金△6四香なら▲2二角、△9六歩▲同歩△9七歩▲同香△8五桂の端攻めも▲4九歩と竜の利きを止めて、いずれも先手良しとの見解が示されている。
 対照的に千葉五段の自戦記には「△1九竜(参考1図の一手前)……の踏み込みに自信がない訳ではなかったのだが。」という一節がある。具体的にどういう手順が用意されていて「自信がない訳ではなかった」のか、是非とも知りたいところだ。

 駒損が激しく、また筆者自身は受け身の棋風ということもあり、個人的には参考1図のような変化は気が進まないのだが…さらに興味深いのはこの展開を小見出しで「踏み込めなかった変化」と称し、「せっかくの大舞台だし、じっくりと戦いたい(中略)本当はただ腰が引けていただけなのかもしれない」と記されている点にある。
 本局に臨むにあたって千葉五段に緊張の色が濃かったのは「角道を開ける前にハンカチで何度か手をぬぐわなければならなかった」と自戦記でも語られている通りであるが、こうした心理が対局開始直後はともかく肝心の将棋の内容自体に影響してしまったのが、結果的にもやはり問題ではなかったのだろうか。
 羽生四冠は言うに及ばず、森内名人も泰然自若とし自らのペースを崩さない。佐藤康光棋聖はいわゆる「十七番勝負」でも見せた通り、周囲の予想をことごとく覆すような手順・作戦を用いて羽生四冠と激闘を繰り広げた。本局の対戦相手である渡辺竜王にしても、竜王戦七番勝負の大事な初戦において公式戦未経験の一手損角換わりを採用して、見事に白星を飾ったのは記憶に新しいところだ。
 このように、四人のタイトルホルダー達には大舞台における緊張が、少なくとも盤上の具体的な指し手には表れていないように見受けられる。一方の千葉五段は激しい変化に踏み込めず、結果的に本人いわく「ひたすら辛抱の苦しい展開」を余儀なくされてしまった。このあたりに何か「差」を感じてしまうのは筆者だけであろうか。筆者ごときがご高説を垂れるのはおこがましいかもしれないが、自身なりに大事な対局を何度も経験し、その度に千葉五段と同じような心理状態に陥った経験が少なからずある(特に団体戦において)筆者には、とても他人事とは思えないのだが…。

第2図 本局に戻って第2図。ここでの△4一飛が自戦記では「失着」、「形は悪いが△5二飛としておくべきだったか」とある。自身で読み返してみたら当ブログの記事でもちらっと触れていた(目の付け所は間違っていないというわけか)。
 ただし▲5五歩と合わせられるくらいで嫌味という筆者の意見は的外れ、急所の筋は▲6五歩のようだ。「△同桂▲6六歩には△8五歩▲6八角△8四角と反撃する順がある」。なるほど▲6五歩と桂馬を取られても△4八歩成が実現すれば釣り合いは取れていそうだ。本譜は2筋を破られ「ついにダムは決壊してしまった」。
第3図 第3図での△6五同歩も▲5五桂という華麗な手を実現させてしまい疑問だったようだ。△4六とがまだしもとのことで、これも一応▲6四歩△同銀▲6五歩△5三銀▲6四桂くらいで支えきれない…と筆者自身が簡単に検討している。
 しかし千葉五段の自戦記では▲6四歩△同金とこちらで取り、そこで▲1一竜で「まあ少し悪いのだが」という解説。なるほど△6四同金ならば▲6五歩を△同金と取れる。先手もそれを決めずに▲1一竜と香車を補充し、今度こそ▲6五歩(△6三金は▲6四香、△同金は▲6三香)を狙うのが確かにプロ筋だ。

 観戦記ではなく自戦記ということもあり、個々の指し手や変化に留まらず、実戦心理にまで言及されており非常に興味深い内容であった。参考1図以下の手順は研究課題としておきたい。

四間飛車 in C級1組第六回戦(1)

 11日に行なわれたC級1組順位戦第六回戦より、順を追って何局かピックアップしていく。本日は中座-千葉戦を見て行きたい。千葉五段の四間飛車対中座五段の居飛車穴熊となり第1図、三日前にこちらで取り上げた新人王戦決勝三番勝負の第一局、渡辺-千葉戦にも同一局面が出現した。その将棋ではここから千葉五段が△4一飛と引いたが、本局は違った進行を見せる。

第1図  第1図以下の指し手
       △4一銀 ▲6八角 △5二銀
 ▲4六歩 △同 歩 ▲同 銀 △6五歩
 ▲5五歩 △6六歩 ▲同 金 △6五歩
 ▲6七金引(第2図)

 △4一銀と引く手は『四間飛車破り【居飛車穴熊編】にも載っている一着。以降も本と同じように進行する。▲5五歩の局面で△同角▲同銀△4九飛成と無理やり飛車を成り込む手もあるが、本譜は△6六歩と取り込んで以下第2図、依然として竜王本の通りの手順だが…。
第2図  第2図以下の指し手
       △9六歩 ▲同 歩 △9七歩
 ▲同 香 △8五桂 ▲4五桂 △同 飛
 ▲同 銀 △5五角 (第3図)

 第2図で△5五歩に▲4五桂で居飛車良しが本の結論だが、千葉五段は△9六歩から端を攻めた。△9七歩に▲同桂は玉のわき腹ががら空きになり、△5五角▲同銀△4九飛成が王手になってしまう。▲9七同香△8五桂に▲4五桂と反撃するが、そこで△同飛が思い切った一手。▲同銀に△5五角と出る手が実現した。
第3図  第3図以下の指し手
 ▲1八飛 △9七桂成▲同 桂 △6六香
 ▲5六銀 △6七香成▲同 金 △6六歩
 ▲7七金 △3七角成(第4図)

 第3図で▲5八飛は△9七桂成▲同桂△6六桂が痛すぎる。▲1八飛は仕方ないが、△9七桂成~△6六香で金が取れる形となり後手の駒損もそれほどでもない形となった。▲5六銀△6七香成▲同金に△6六歩が入るのも大きく、▲7七金に△3七角成と緩めて第4図。ここから先手も反撃に移りたいところだ。
第4図  第4図以下の指し手
 ▲5三歩 △同 銀 ▲4一飛 △6四桂
 ▲6五香 △9五歩 ▲8五桂 △同 歩
 ▲8四桂 (第5図)

 攻めるとはいえ後手陣に手がかりがなく、▲5三歩△同銀と形を乱して▲4一飛はこれくらいか。再び手番の回ってきた後手は△6四桂と打つ。銀を逃げるのは△6七金で支えきれないと見たか▲6五香と反撃含みに守るが、そこで△9五歩と今度は端を攻めて挟撃態勢を採る。▲8五桂と捨てて▲8四桂は非常手段だが…。
第5図  第5図以下の指し手
       △4四桂 ▲6四香 △同 馬
 ▲6五歩 △9七香 ▲8九玉 △7三馬
 ▲7二桂成△同 金 (第6図)

 もらった桂馬を△4四桂に打つのが厳しい。▲7二桂成△同金▲8一銀は△6二金寄でたいしたことはなさそうだ。本譜の▲6四歩△同馬▲6五歩にも△9七香が好手で、▲8九玉に△7三馬と逃げておけば▲9七銀とは取れない(△9六歩が銀取りとなり、かえって攻めが早くなってしまう)。先手陣は急所に拠点を作られた格好となってしまった。
第6図 ▲7二桂成△同金で第6図、後手玉は下段に敵の飛車が直通している形となったものの、上部も広く比較的安全である。
 単純な▲6四桂の攻めでは勝てないと見て▲8四桂△同馬▲4六角と捻った順を先手は選んだが△7三桂で安泰、以下十数手で千葉五段の勝ちとなった。中座五段は一手違いにして形を作るのがやっとで一勝四敗と不本意な成績に。一方の千葉五段は五勝一敗と好調を維持している。
 定跡形その後、という興味津々の展開となった本局、▲4五桂に△同飛と切る手は千葉五段の研究手順であろうか。先手が変化するとすればここだが、次に△9七桂成~△6六香もありうまい手が見つからない。
 第3図以下もほぼ必然の応酬が続き第4図、この瞬間に先手に何かあればいいのだが、後手のダイヤモンド美濃が堅く気の利いた攻めは見当たらない。筆者の棋力では居飛車側の修正手順は見つからず、そのまま定跡となってもおかしくない千葉五段の指し回しばかりが冴え渡っている。△3二銀型を指してみたい、と思わせるような好局であった。

四間飛車破り【実戦編】

 7日に行なわれた第36期新人王戦・決勝三番勝負第一局の渡辺-千葉戦を見て行きたい。千葉五段の四間飛車に渡辺竜王の居飛車穴熊という予想通りの展開となり第1図。『四間飛車破り【居飛車穴熊編】』P182の第1図と同一局面であり、本ではここから△8三銀と△4一銀が紹介されているが…。

第1図  第1図以下の指し手
       △4一飛 ▲6八角 △5一角
 ▲4六歩 △同 歩 ▲同 銀 △4三銀
 ▲4八飛 △4四銀 (第2図)

 △4一飛~△5一角が工夫の構想。本譜のように4筋から仕掛けられた際に、▲4五桂と跳ねる手が角取りにならないようにしておいて△4三銀と上がりやすくしている意味がある。以下▲4八飛△4四銀と進み第2図、4筋が争点となりそうだがいきなり▲4五銀は△5三銀でつまらないと見て、先手は自陣を整備する。
第2図  第2図以下の指し手
 ▲7九金 △1四歩 ▲7七金 △6二角
 ▲7八金引(図略)

 ▲7九金から穴熊を組み替える構想は、形こそ違えどやはり渡辺竜王の著書に似たような手順が載っている。対する後手も囲いを銀冠に進展させたいところだが、△8三銀と上がった瞬間が怖い。△1四歩以下の手待ちに近い手順を後手は選んだ。
 ここから十数手ほど細かいやりとりが続いて第3図を迎える。
第3図  第3図以下の指し手
 ▲5五歩 △5一飛 ▲5七飛 △5五歩
 ▲同 飛 △4二銀 ▲8六角 △5三銀
 ▲5八飛 (第4図)

 ▲5五歩と突くことができて先手は手詰まり模様を脱した。△5五歩▲同飛に後手も△4二銀と引き付けて対抗、▲5一飛成なら△同銀で手順に玉が固くなる。
 それを嫌って▲8六角と急所を睨む位置に角を移動、△5三銀と6五の地点を補強する手に対して▲5八飛と当たりを避けて第4図。ここで後手は手筋の一着を放つ。
第4図
  第4図以下の指し手
       △4七歩 ▲5五銀 △5四歩
 ▲4六銀 △4一飛 ▲2四歩 △同 歩
 ▲2三歩 △4二飛 ▲2八飛 △8五桂
 ▲2四飛 (第5図)

 △4七歩の垂れ歩は振り飛車の常套手段で、次に具体的な狙いがあるわけではないがと金作りを見せて先手の攻めを牽制している。
 ▲5五銀に△5四歩は打ちたくないが、中央に銀をのさばらせておくわけにはいかず仕方ない。先手は▲4六銀以下、今度は2筋で手を作る。
第5図 ▲2三歩△4二飛に▲2八飛で次の▲2四飛が受からない。戻って△4一飛のところでは△5二飛ならこの筋は防げるが、▲5五歩と合わせられるくらいで嫌味か。銀を交換すると▲4三銀の筋が残る。
 ともあれ、▲2四飛と走ることができて渡辺明ブログにもあるように先手に形勢は傾いた。

  第5図以下の指し手
       △4八歩成▲2二歩成△4七と
 ▲3二と △同 飛 ▲2一飛成△4二飛
 ▲6五歩 △同 歩 ▲5五桂 (第6図)
第6図 お互いにと金を作り、後手は△4七とと銀取りに引く。▲3二とに△5二飛なら▲2一飛成△4六とで銀は取れそうだが、▲3三と~▲4三とで結局取り返されてしまう。△3二同飛▲2一飛成△4二飛と我慢するが、▲6五歩の追撃が厳しい。ここでも△4六とは▲6四歩△同銀▲6五歩△5三銀▲6四桂くらいで支えきれない。
 △同歩には▲5五桂が瞠目に値する一手。△7三金なら▲4四歩と突き出す手がぴったりだ。本譜は△5五同歩▲同銀と進み、桂馬を犠牲に取られる寸前の銀がさばけて先手優勢がはっきりした。
 第6図以下は後手の端攻めを先手がいなして制勝、渡辺竜王が三番勝負の初戦をものにした。
 千葉五段に具体的な悪手が見当たらないのは筆者の棋力不足の賜物であろうか。自然に指して自然に先手がペースを掴み優位を拡大していったようにも見える。
 棋書通りの形から振り飛車が変化したものの、細かく動いて居飛車穴熊側が良くなっていくといった内容は、まさに四間飛車破り【実戦編】といった様相であった。筆者は△3二銀型はあまり指さないものの、非常に参考になった一局。